必須医薬品の世界へようこそ

必須医薬品の適正使用、アクセスに関するエビデンスを紹介します

生物学的製剤アクセスの問題点について指摘したSuleman教授の就任講演 (“Affordability and equitable access to (bio)therapeutics for public health” at the inaugural lecture by Professor Fatima Suleman)

発表の概要

「生物学的製剤(医薬品)へのアクセスは、人々の健康への権利の履行の一部である」

  • 南アフリカ乳がん患者が既存の生物学的製剤にアクセスすることができずに亡くなった例を挙げながら、治療方法が存在するにもかかわらず、医薬品へのアクセス、及び、現行の医薬品価格における消費者の購買能力(affordability)との乖離における問題があることを指摘。
  • 高価格である抗がん剤治療、米国におけるインスリン、エピペンの価格高騰など医薬品へのアクセスは低所得国だけの問題ではなくなっている。
  • 特に低所得国では医薬品の自己負担割合が高く、家計を圧迫する要因のひとつになっている。
  • 南アフリカにおける薬価政策に関連した課題の例:ジェネリック医薬品の価格が下がりきらない、小売価格等が未だ非公開かつリベート等に対するが規制に整っていない、薬価決定における国際参照価格の導入に踏み切れていない など。
  • HIV治療薬における事例では、特許に守られ高価で購入できなかったHIV治療薬であったが、市民活動や治療行動キャンペーン(Treatment action campaign) 等を通じアクセス問題に対し南アフリカ国民だけでなく国際的にも関心を集め、世論の支持を受けた結果、製薬企業からの裁判を切り抜け、HIV治療薬のジェネリックを国民に広く使用できる状況を作ることができた。しかしながら、このHIVの事例を除いて医薬品のアクセス及び薬価システムに関して人々の関心がここまで高まったことはほとんどないのではないだろうか。
  • 薬価政策が南アフリカ国民の医薬品へのアクセス及び購買能力にどの程度影響をもたらすのかについてエビデンスが確立されていない。これは南アフリカに限ったことではなく、ヨーロッパにおけるジェネリック政策等も含め、政策における成功・失敗をエビデンスとして集積していくことが重要である。その為には正確な価格データ及び価格データの透明性(transparency)が不可欠である。
  • 価格の透明性に関する主な課題の一つは、研究開発(R&D)にかかる費用である。例えば、研究の一部は税金等の公的な費用の導入によって行われているが、そうした場合、公正な価格(fair price)とは何か、どういった因子が価格に決定づけるのであろうか。治療アウトカム、国民の購買能力など多くの因子に関してエビデンスを集積していく必要がある。

 

コメント

公衆衛生の観点から、必須医薬品へのアクセスは世界の人々の健康を守り増進する上で非常に重要な問題である。また、営利団体である製薬企業の新薬開発や医薬品製造などの貢献も世界の人々の健康を守り増進する上で必要不可欠である。医薬品をより低価格で購入したい行政・市民側と、利益を確保し投資した開発費用を回収しなくてはならない営利団体の製薬企業の対立はイデオロギーの違いによる対立として見えてしまうのであるが、Suleman教授が述べるように質の高いエビデンスを集積していくことで「公正な価格」について関係者(stakeholders)がより客観的に議論できる状況に導くことができていくのではないだろうか。

 

Fatima Suleman教授

オランダUtrecht大学WHO医薬品政策規制協力センター

南アフリカKwaZulu-Natal大学薬学部 所属

 

引用

The live stream of the inaugural lecture by Professor Fatima Suleman, entitled “Affordability and equitable access to (bio)therapeutics for public health”.

Available at https://lecturenet.uu.nl/Site1/Play/2f6dc634429a4ada881b32404c468e7a1d